武相荘へ白洲次郎と正子の家は静かな時間の流れる空間でしたブラスト工房ガラス彫刻

武相荘　東京都町田市鶴川

近いのだからいつか行こう、今度行こう、時間が出来たら行こう、と思っていると、なかなか行けないものです。
そんな場所が、白洲次郎と正子の家であった、武相荘です。
ブラスト工房のある埼玉県蕨市から、電車を２回乗り換えて約１時間で到着。
場所は、東京都町田市鶴川です。

白洲次郎・正子夫婦が、農家を買い取り補修をしてここに転居してきたのは、１９４３年。
その頃は、鶴川村という地名で畑と農家が点在する、本当の田舎でした。
「あんな奴らと戦争をしたって、絶対に勝てない！日本は参戦してはダメだ。」
日本が第２次大戦に参戦することに反対していた次郎。
ケンブリッジ大学に留学していた経験もあり、貿易商として、イギリスやアメリカへ頻繁に行っていたわけですから、
各国の経済力・軍事力を熟知し、日本との大きな差を体感していたが故の、反対意見だったのでしょう。
「戦争に負けたら食うものが無くなる。自分で作るしかない。」
という事で、鶴川村へ転居し農業を始めて、自給自足の生活を目指していたわけです。

自然に囲まれた本当に貴重な空間が武相荘　今の鶴川は、ユニクロ・すき家・魅力屋と普通の住宅街

入り口には、きれいな百合が咲いていました

現在の鶴川は鶴川街道沿いに、すき家・魅力屋などなど大手チェーンの店が立ち並ぶ、どこにでもある住宅街になっています。
武相荘は、ユニクロの先を曲がった、小高い丘の上にありました。

ガレージとして使われていた建物
季節によっては、オープンカフェとしても使われるようです。

庭を歩ける散策路もあり、ここだけは、周りの喧騒が消えた、静かな空間です。
２人が暮らしていた茅葺屋根の母屋は、農家としての作りのままで丸太の梁が通り大黒柱のある、
堅牢な建物でした。
畳の部屋でありながら、天井まである大きな書棚に囲まれた正子の書斎。
デスクではなく、大きな文机が置かれているのですが、足元は掘りごたつのように、掘られていました。

ギャラリーは夏の展示でした。
特に正子の集めたガラス食器が多く展示され、どれもが華美なののではなく、実用されていたもので
あることが良くわかります。
魚の頭が一周描かれた、ルネ・ラリックの大皿は始めて見る物でした。
たぶん今の価格では、３０万以上では取引されるのではないでしょうか。
これを普段使いとは！と思われるかもしれませんが、良いものを長く大切に使う、というスタイルこそが、
優しく清潔感のある静かな、この空間の空気を作り出しているのだと思います。

かといって、高級なものばかりを使っていたわけではありません。
次郎の愛用のロックグラスは、ウイスキーの空きボトルの下の部分をカットして、小口を磨いたもので
ボトルそのままの、緑色をしたものです。
「ここを使ったら面白いのではないか」
という、次郎流のユーモアや好奇心の現われでもあります。

白洲次郎の若い頃の愛車と同型の物

プリンシプル＝原理原則に基づく行動規範　の無い国　日本

プリンシプル principle 原理とか原則と言う風に訳される英語です。
次郎は特に、このプリンシプルを重要視していました。
「すべての言動にプリンシプルがはっきりしていることは絶対に必要である」
特に「言動」が重要だと思います。
言っていることとやっていることが矛盾している人。
常に周りに合わせた言動しかしない人。
こういう人は、自分なりの行動規範を持っていません。
自分なりの行動規範を持ち、有言実行している人は、多くの人の信頼を得ます。
逆に言うと、頑固な人・融通の利かない人、に見えるかもしれませんが、実際は違います。
揺るがないプリンシプルがあるからこそ、変化に柔軟に対応できるのです。

次郎は生前「日本にはプリンシプルが無くなった」と言っていました。
第２次大戦の敗戦後、経済の高度成長に入り、発展したように見えますが、
国としての原理原則を無くしてしまったので、低成長期の今、何もわからずフラフラしている状態です。
そんな中でも、ちゃんと「自分なりの行動規範を持っている人」は、多くの人の信頼を得て、着実な人生を歩んでいます。
こういう個人が増えていくのか、日本国としてのプリンシプルを持てるのか。

政治も経済もフラフラしている、2024.8月の日本の状況を見ながら、そんな事を考えさせられる、素敵な空間が武相荘でした。